「昭和花あらし」が完成しました。今日から毎日少しづつブログに掲載します。今日は1〜5ページ掲載。2024年9月1日
1 昭和花あらし 篠崎正喜
桜が咲くと、九十年前の筑後川堰堤での花見の宴を思い出します。
大正七年、私は五歳でした。
大好きだったお花さんは宴の中で艶やかに踊り続けていました。
私の傍では、お花さんの一人息子のイッちゃんが泣きじゃくっていました。
2
話しかけても、ただ泣き続けています。
何が悲しいのか聞いても、ただ泣いています。
私は困り果ててしまいました。
お花さんはイッちゃんのことは気にせず、踊り続けていました。
3
私は近づいて、お花さんの袖を強く引きました。
「イッちゃんが泣いてるよ」
でも、お花さんは踊るのをやめません。
「よかよか、泣かせといて」
と踊り続けました。
4
イッちゃんを無視して踊り続けているお花さんが不思議でなりませんでした。
でも、踊る姿はとても美しく見えました。
踊り続けたお花さんの気持ちが理解できたのは、私が大人になってからでした。
5
イッちゃんは私より一つ年下です。
四年前の大正三年に生まれました。
父親の名前は猪太郎。
むさ苦しい名前ですがスッキリした役者みたいな若者でした。
だから女たち
は猪太郎さんを放って置きませんでした。
お花さんは苦労が絶えなかったと思います。
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