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2024年10月 3日 (木)

「美しい人」の薬指の結婚指輪を消した経緯。2024年10月3日

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「美しい人」個人蔵。自作「風はいつも見守っていた」の一場面。
主人公の亡くなった妻の肖像として描いた。

銀座での作品展で、最初の買い手は入り口から真っ直ぐにこの絵へ歩いて来た。
「売ってくれますか」
「いいですけど、高いですよ」
ラフなジャンパー姿の50歳くらいの人だった。
「いくら高くても構いません」
彼は絵を見つめながらこたえた。
担当者と手続きするようにと伝えると、画廊奥の事務室へ行きカードで決済して他の絵は見ないで帰って行った。

彼が帰った後、担当のKさんが話した。
「絵は娘に届けてくれだって」
詳しく聞くと複雑な話だった。
「彼は今、北陸に住んでいるみたい。でも、昔、別れた娘が港区に住んでいて、捨てたお詫びにこの絵を贈りたいって」
なるほど複雑な話だ。しかし、お詫びにこの絵を贈るのはどうなのだろうと違和感を感じた。

作品展が終わってしばらくして、Kさんから電話が入った。
「絵の代金は買い主に返して話はなかったことにした。承知してね」
経緯を聞くと複雑な話だった。
娘は港区の高級マンションに住んでいた。
父親からのプレゼントだと言って絵を見せると「いらない」と激怒して突き返した。理由を聞くと、父親は妻と娘を捨て、この絵に似た女性へ走ったようだ。
「そのような事情なら受け取るはずがない」
私は納得した。それにしても、父親を奪った女にそっくりの絵を娘に贈る父親の気持ちが理解できなかった。

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手元に再び戻ってきた「美しい人」は「出戻りの人」と名前を変え、薬指に描いていた結婚指輪を消した。
制作途中の画像で他にも色々違っている。
手元の先に置いてある絵本は「父は空 母は大地」パロル舎版、パロル舎は残念ながら今は無くなった。

「誰にも売らないで、一生手元に置いておくよ」と絵に誓った。
しかし数年後、生活に窮して、泣く泣く売却してしまった。

「大切に飾ります」
非鉄金属の会社経営者だった買主は約束してくれた。
だから「美しい人」は今は幸せになっていると思っている。

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