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2024年11月22日 (金)

漫画シナリオ「赤い野いばらー3」2024年11月22日

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 チロが教えたのは蔦が絡んだ彫刻だった。
カナは覆っている蔦を急いで取り除いた。
すると若い男女の大理石の彫刻が現れた。
確かに男の子はトオルに似ていた。
「隣の女の子は誰。なんだか嫌な感じ」
カナは不機嫌に言った。
「あれっ、その子を知らないのか?
そんなやせっぽっちは、カナちゃんに決まっているだろ。
この世界では、願っていることがそのまま、そうなってしまうんだ」
チロはそう言って、片方ヒゲをブルンとふるわせた。

《これが私? 私ってこんなに可愛いの》
カナは彫刻を眺めなおした。
でも、トオルが大理石の彫刻なのは不満だった。
「トオルを石に変えたいなんて、私が願うわけないでしょう。
他に知っていることがあるなら、全部話しなさい」
カナは両手でチロを抑え込んだ。
すると、チロは必死でカナの手をふりほどいて、広場の茂みへ転がりながら逃げて行った。

残されたカナは、大理石のトオルの傍に腰掛けた。
「チロも喋ることができるのだから、トオルだって喋ることが出来るのでしょう?
聞こえているのなら、何か答えて」
でも、彫刻はただの大理石のままだった。  
カナは彫刻に登って、首に腕を回してキスをしてみた。
物語ならキスをすれば生き返るはずなのに、彫刻は冷たい大理石のままだった。

「私が探しているトオルは、こんな石の彫刻じゃない。チロの嘘つき」
カナはチロが消えた茂みへ向かって、何度も言った。
すると茂みからチロの声が聞こえた。
「うしろの建物にはいってみな。
赤い野いばらのことも、トオルのことも、みんな分かるかもしれないよ」

ふりかえると、さっきまで何もなかった所に、荒れはてた建物があった。
その古い建物に、カナは勇気をふるって近づいた。
そして、冷たく重いとびらを押し開けた。
中は暗くカビのにおいがした。
目を凝らすと、広い廊下がずっと先まで続いていた。
カナはこわごわと入って、廊下の両側にある部屋を一つ一つ開けてみた。
どの部屋も暗く、古ぼけた家具や道具などが埃をかぶっていた・・・

 それはいつまでも続く気がして、退屈した。
チロが「この世界では、願っていることがそのまま、そうなってしまう」と話していた。
カナは試しに、大好きなレモンパイのことを考えみた。
《メレンゲの焦げたところは、こうばしくて大好き。
大きなレモンパイがでてきたらいいのに》
カナは想像しながら、ごくりとなまつばを飲みこんだ。
するとすぐに、レモンパイの甘い香りが漂って来た。

カナは香りの方向へ進んだ。
いくつもいくつも廊下を曲ると、かすかな明かりが見えた。
その部屋に着いて、ドアの隙間から中を覗くと暖炉が見えた。
そのかたわらの古い机で、老人が書きものをしていた。
老人は時折書く手を休め、暖炉の火に手をかざして、もの思いにふけっていた。
火の傍の大きな鉄鍋からは、焼きたてのレモンパイの香りが漂って来た。

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カナは初めて人に会えたのが嬉しかった。
ドアを開けて挨拶すると、老人は驚いてカナを見た。
「この部屋に人がたずねて来るのは、五十年間ありませんでした」
老人は椅子をすすめながら、しげしげとカナを見た。
「美味しそうなパイの香りが漂って来たので、ここへ来ました」
それを聞いて、老人は嬉しそうに鉄鍋から、出来立てのパイを取り出した。
「いつも一人で食べていました。
誰かとお茶を楽しむのは久しぶりで、とても嬉しいです」
老人はパイを切り分け、紅茶を入れてくれた。

二人でお茶をしながら、カナは聞いた。
「赤い野いばらの花が咲いている場所を、知りませんか?
その花を探している、トオルと会いたいのです。
もし、何か知っていることがあったら、教えてください」
老人はしばらく口ごもっていた。
そしてやっと、カナの言葉の意味を理解した。

「赤い野いばらの花を探している、トオルさんのことですか。
そのような若い人のことを、とても昔に聞いたことがあります。
ちょっと待ってください。
この紙の束は、私が書いた手紙です。
それを調べたら、何かわかるかもしれません」
老人は机の傍らの紙の束を調べ始めた。 
カナは不安になった。
《昔、聞いたって?これはさっきの出来事よ。それを遠い昔のできごとのように話す人に、トオルのことがわかるかしら》

老人は一生懸命、手紙の山を調べ続けた。
「この手紙の山は、あまりにも長い間、書き続けていたので、出す相手の名前を忘れてしまいました。でも大昔、赤い野いばらの花を探してた若者がいたことを、かすかに覚えています」
老人は長い長い手紙の束を、丹念に読み返していた。

調べ終えるのは長くかかりそうだった。
パイを食べ終えたカナは、部屋を見まわした。
天井近くに、明かり取りの窓があった。
椅子に乗って明り取りを開け、外を眺めた。
いつの間にか、外には霧が出ていた。
目を凝らすと、海がかすんで見えて波音が聞こえた。
吹き込む風に、微かな野いばらの香りを感じた。
カナは明り取りから外へ出てみた・・・

 霧の中に、野いばらの白い花が咲いていた。
カナは野いばらの花を一本だけ、折った。
その時、指先が野いばらの刺で傷つき、一滴の血が白い花に触れた。
すると、野いばらの白い花は、血が巡るように赤く染まった。

カナは赤い野いばらの花を手に、急いで部屋へ戻った。
「おじいさん、赤い野いばらの花を見つけました」
カナは老人のそばに駆けよった。
しかし、老人はカナがさしだす赤い野いばらの花を、見ようともしなかった。
老人はつらそうに、一枚の手紙を差し出した。
そこには、カナとトオルが夏休みの終わり、海辺で過ごした一日の出来事が書かれていた。 
老人が書いていた手紙の相手は、カナだった。

「あの夏の終わりの日、あなたは私のそばから、突然に消えました。
あれから五十年間、私はこの寂しい部屋で、出すあてのない手紙を書き続けました。
ちようど今日は、あなたがいなくなった日です。
今となっては、あなたを思い出したくなかった。
それなのにあなたは、あの頃のままの、若く美しい姿で現れました。
それは私にとって残酷なことです」 

カナは老人の話している意味が、よく分からなかった。
でも眺めなおすと、老人にはかすかにトオルの面影があった。
「あなたが、私のさがしているトオルなの?
そんなことがあるはずがない。
もしそうだったら、私だっておばあさんになっています」
老人は頭をふってカナの言葉を否定した。
そして、部屋の中を示した。
「壁の写真や棚のおもちゃを見てください。
どれも、あなたは見覚えがあるはずです」 

カナが部屋の中を見まわすと、
暖炉の上には、カナがトオルにプレゼントした、小さな手回しオルゴールがあった。
壁にはセピア色に変色した、カナとトオルの記念写真があった。
部屋の隅には、古ぼけた二台の自転車があった。
その一台は間違いなく、海辺へ出かけた時のカナの自転車だった。
荷台にはあの日のままに、カナのバスケットが色褪せて残っていた。

カナはもう一度、恐る恐る老人を見た。
「違います。私が探しているトオルは、あなたではありません。
こんな意地悪はしないで、若い十五歳のトオルに会わせてください」
老人は深いため息をついた。
「この老人の肌を、みずみずしく戻すことはできません。
過ぎ去った年月を戻すことができるのは、夢の世界だけです」

その言葉を聞いて、カナは素晴らしい考えがひらめいた。
《この夢の世界では、思ったことが実現する。
チロはしゃべることができるし、校長先生は大理石になっていた。
もし、おじいさんが書いていた手紙を全部燃やしてしまえば、
このおじいさんは消えて、あの日のトオルに会えるかもしれない》

カナはすばやく、老人の手紙の束を掴むと、暖炉の中に放り込んだ。
「何をするんだ。
私の大切な思い出を燃やしてしまったら、私はこの世界から消えてしまう」
老人はわめきながら、火の中から手紙の束を取り出した。
しかし手紙の束は、一部を残して燃えてしまった・・・

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・・・老人も建物も海辺も消えていた。
カナは草原に立っていた。
周囲は遠く幾重にも、山々が広がっていた。  
空には嵐の前ぶれのように、雲が流れていた。
確かに記憶にある風景だけど、いつどこで見たのか思い出せなかった。

カナは目を凝らして、記憶につながるものを探した。
すると草原の遠くに白いものが見えた。
カナは急いで近づいた。
それは大きな白鳥を抱いた、美しい少年だった。
少年は澄みきった瞳で、まっすぐにカナを見つめた。

カナはようやく思い出した。
その風景はトオルが子供の頃、凧あげをしていた風の丘だった。
行ったことはなかったけど、何度もトオルに風の丘の話しを聞いていたので、想像した風景が記憶に残っていた。

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少年は写真で見たことのある、子供の頃のトオルにそっくりだった。
少年は大人びた口調で話した。
「もう少しで、今のぼくまで燃やしてしまうところだったよ。
手紙の束が十五歳のところで燃え残ったら、君が探しているぼくと会えたのに残念だ」
その少年は十歳のトオルだった。 
カナは恥ずかしくて、耳まで赤くなってしまった。
《私はなんて馬鹿な子だろう。
せっかくトオルに会えたのに、こんなに若くしてしまって》
カナは赤い野いばらの花を、少年にさしだした。
少年は気の毒そうに、野いばらをカナに返した。
なぜなら、赤い野いばらの花は、カナの手を離れるとすぐに白い花に戻っていたからだ。

「赤い野いばらー4」へ続く

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